大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)740号 判決 1958年12月09日
控訴人 日本電設工業株式会社
被控訴人 合同電線株式会社
主文
原判決を取り消す。
本件を大阪地方裁判所へ差戻す。
事実
控訴代理人は、昭和三三年一一月六日午前一〇時の本件最初の口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものと看做された控訴状によると、原判決を取り消す、本件を大阪地方裁判所へ差戻す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、予備的に、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求めるというのであり、被控訴代理人は、控訴人の控訴を却下する、控訴費用は、控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の主張としては、控訴人において陳述したものと看做された控訴状及び準備書面によると「被控訴人の本訴請求原因事実及び控訴人のこれに対する答弁事実は、原判決事実摘示のとおりである。而して控訴人はその答弁事実立証のため、証人西沢順作、上田喜彦、神吉忠士、渡辺明の取調を申請していたところ、原審において昭和三三年四月一日午後一時の口頭弁論期日において、右証人西沢、上田、渡辺の三名が採用され、証拠調期日として、昭和三三年七月二二日午後一時が指定告知されたにも拘らず立会書記官が、当日行われた他の事件と間違えて口頭弁論調書の記載をあやまり、弁論が終結されたことになり、裁判官はこの誤つた調書に基き、控訴人に対しその主張事実立証の機会を与えられないまま、突然判決を為し、判決書の送達を為したものであつて、もとより原判決は、その手続において、重大な過誤があり、又実体的にも控訴人は全部不服であるから控訴に及んだものである。本件においては、判決書なるものが存在し、判決正本は訴訟法上の手続によつて、当事者双方へ送達されたものであつた。してみると判決は存在するものであつて、不存在とはいえない、唯右の判決が適法に為されていない為、無効のものであるというだけのものであるあるから、控訴審において、無効を理由として破棄し、原審に差戻されるのが正当である。もし控訴が不適法として却下される場合、判決には当然無効がないから、一審判決が有効に確定する危険がある」というのであり、被控訴代理人において、「控訴人主張の如く原審において弁論が行われその証拠調の途中において、控訴人主張の如き経緯にて判決書の送達のあつたことは認める。しかしながら、本件の原審判決は言渡がなく、唯判決正本があやまつて送達されたに過ぎないものである。従つて言渡のない判決はたとい形式上完全に編製され適式に当事者に送達されたとしても外部に対しては判決は存在しない、(明治三七年<オ>第二四六号同年六月大審院民事第二部判決)よつて本件控訴は却下さるべきである。」と述べた外原判決事実摘示のとおり原審口頭弁論の結果を陳述したから、ここにこれを援用する。
理由
被控訴人が原審において、原判決事実摘示のとおりの弁論をなし、控訴人がその主張事実立証のため証人西沢順作、上田喜彦、神吉忠士、渡辺明の取調を申請していたところ、原審において昭和三三年四月一日午後一時の口頭弁論期日において、右証人西沢、上田、渡辺の三名が採用され、証拠調期日として、昭和三三年七月二二日午後一時が指定告知されたにかかわらず、立会書記官が、当日行はれた他の事件と間違えて口頭弁論調書の記載をあやまり、弁論が終結された記載になり、裁判官がこの誤つた調書に基き判決書を作成し、その送達がなされたことは当事者間に争がないところ、本件原審記録である大阪地方裁判所昭和三二年(ワ)第三、四八七号売買代金請求事件の記録中第一乃至第三回口頭弁論調書によると前記の通り口頭弁論が進行し、訴状及び答弁書に基く陳述の外甲号各証の提出、その認否、原告(被控訴人)代表者尋問がなされたことが認められ、右第三回の弁論期日調書において次回期日を「昭和三三年四月一日午後一時」と指定した旨の記載あるところ、第四回口頭弁論調書には、これと一体をなす「証人等目録」欄には昭和三三年四月一日午後一時前記証人上田、西沢、渡辺を採用した記載があり、同調書の「事件の表示」欄には「昭和三一年(ワ)第二四八七号」と記載されその「期日」欄には「昭和三三年四月一日午前十時」とあり、「弁論の要領」として弁論を終結する旨、また判決言渡期日として調書の上記に「昭和三三年五月十日午前十時」の記載がなされていることが認められ、同調書は前記これと一体を為す「証人等目録」欄とそぐわず、前記「事件の表示」欄の番号が本件原審の番号と異なり、また前記「期日」欄の時間がその前回調書記載の次回期日の時間と異るところからして当事者の表示は本件と同一であるが他の事件に編綴すべき調書を本件に編綴したかと推認される体裁となり、結局前記当事者間争のない昭和三三年四月一日の期日に次回証人調の期日が指定され結審がなかつた事実は、本件記録によつてもこれを推認することができる。ところが本件記録添付の原判決原本の右肩欄外に「昭和三三年五月一〇日判決言渡、昭和三三年五月一五日判決原本領収裁判所書記官補」として捺印がなされていることが認められるが、被控訴人は、本件の原判決はその言渡がなく、ただ判決正本があやまつて送達されたに過ぎないから、外部に対しては判決は存在せず、これに対する本件控訴は不適法である旨主張し原判決の言渡がなかつたことについては控訴人において明らかに争はず、また本件記録を調査するのに原審判決の言渡があつた旨の調書が存しないから、その言渡があつたものと認めることはできない。そうすると判決原本が作成されておつてもまた判決として訴訟法上存在しないとみられないことはないが、かかる場合においても、判決原本が作成され、判決書正本の送達がなされた場合においては、表見的には判決の存在があり、また執行の危険があるわけであるから、これに対して控訴は許すべきものと解するのが相当である。本件において判決原本が作成されその適法な送達がなされたことは本件記録によつて明らかであるから、これに対する本件控訴は不適法として却下すべきものではないが前記の如く本件原判決手続には弁論が終結されていない途中にて終結されたものとして判決書が作成されまた言渡がなかつたのに判決が言渡されたものとして判決正本が送達された違法があり、結局原判決手続が法律に違背していること明らかであるから民事訴訟法第三八七条に従い原判決は取り消されるべきものである。しかして本件は事件について尚原審において弁論をなす必要あるときに当る場合と認められるから同法第三八九条に則りこれを大阪地方裁判所に差戻すこととし主文のとおり判決する。
(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)